脱炭素社会を目指す日本のこれからの地域交通における活用が期待されているグリーンスローモビリティをご存じでしょうか?国土交通省はこのグリーンスローモビリティを「時速20km未満」で公道を走ることができる「電動自動車」を活用した「小さな移動サービス」であると定義付けしています。今回はそんな環境にやさしくまた地域活性化も期待される新たな移動手段、グリーンスローモビリティについてご紹介いたします。
グリーンスローモビリティとは
2015年に採択されたパリ協定に基づき、21世紀後半には温室効果ガス排出の実質ゼロが国際的枠組みとして目指されています。日本では、この低炭素社会の実現のために、環境政策を契機に経済・地域などの諸課題の同時解決を図るような「環境・経済・社会の統合的向上」を具体化した取組が求められているところです。
国土交通省では、この「環境・経済・社会の統合的向上」の考え方に基づき、高齢化が進む地域での地域内交通の確保や、観光資源となるような新たな観光モビリティの展開など、地域が抱える様々な交通の課題の解決と、地域での低炭素型モビリティの普及を同時に進められる「グリーンスローモビリティ」の推進を行っています。グリーンスローモビリティの導入により、地域が抱える様々な交通の課題の解決や低炭素型交通の確立が期待されています。
①時速20㎞未満
日本では、道路運送車両の保安基準は道路運送車両法によって定められていますが、最高時速20km未満の車両は、同法の規制が一部緩和されるため、例えば、窓ガラスがなくても公道を走行することができますし、シートベルトやチャイルドシートの装着も免除されます。なお、シートベルト等についてはあくまでも免除されるだけであり、地域の必要性に応じて装着することを妨げるものではありません。
② 電動車を活用
グリーンスローモビリティは全て電動車を活用することとしており、環境に優しいエコなモビリティと言えます。なお、充電される電気に再生可能エネルギーを活用する場合、CO2フリーのモビリティとなります。
③小さな移動サービス
「小さな」移動サービスとは、鉄道やバスといった従来の公共交通ではカバーできなかった、「自宅からバス停まで」というような短距離のきめ細かな移動サービスを意味しています。ただしマイカーとしての利用は含みません。 従来の公共交通は「はやく・時間通りに・遠くまで」の移動を支援するものでしたが、グリーンスローモビリティは「ゆっくりと・余裕をもって・近くまで」の移動を支援します。
グリーンスローモビリティのメリットとデメリット
グリーンスローモビリティは電動車であるため、沿道環境への影響が小さく、二酸化炭素排出を低減できるうえ、再生可能エネルギーによる電力を活用すれば更なる低減効果が見込めるエコな移動サービスです。充電に必要になる電源は車両によって異なりますが、AC100V または AC200V で充電ができます。また、ソーラーパネル充電装置を屋根にオプションで設置可能な車両もあり、晴れた日には、バッテリーの約半分の電力を走行しながら補うことができます。
また、グリーンスローモビリティはゆっくり走ることで景色を楽しめるので、観光目的でも活用しやすい移動サービスとなります。例えば、広島県福山市ではグリーンスローモビリティの運転者がガイドとして地域を案内しているという実例があります。また、低速運行で、かつガソリン車等と比較して走行音が静かで、車種によっては車内外がドア等によって仕切られていないことから、車内はもちろん車外とのコミュニケーションがとりやすく、地域コミュニティの活性化や、来訪者と地域住民との交流にも寄与します。
一方で、低速が特長であるグリーンスローモビリティを導入する上でのデメリットの1つは、他の自動車等(特に後続車両)へ影響を及ぼす可能性があるという点です。道を譲るための退避スペースがある等、低速でも他の交通に支障をきたさないようなコースを設定することが必要です。実際に、石川県輪島市や群馬県桐生市などグリーンスローモビリティを導入している地域では、他の自動車等と共存し、地域の多くの運転者の方からも受け入れられています。
まとめ
本コラムでは地域の新たな移動手段として注目されているグリーンスローモビリティについてご紹介させていただきました。グリーンスローモビリティは全国で導入実績が増えており、現在も様々な場所で本導入に向けた実証実験が進んでいます。公共交通基盤が整っていない地域や観光地などでの導入が多いですが、東京都の豊島区や三鷹市などの比較的都心部での実証実験も行われています。これらの地域は住宅街の道が狭く、バスが入れないという課題を抱えており、小型のグリーンスローモビリティが導入されれば徒歩や自転車でしか行くことができなかった場所にも楽に行けるようになります。近い将来、グリーンスローモビリティがバスや電車と並ぶ新たな公共交通として利用される日も来るのではないでしょうか。