はじめに
現在、地域住民が利用する幅が狭い道路、いわゆる「生活道路」では、最高速度の標識などがある区間を除き、51cc以上のバイクを含む普通車は、60km/hまでの走行が可能です。しかし2026年9月より、多くの生活道路で法定速度が30km/hまで引き下げられる方針となります。今回のコラムではその背景や改正内容、また歩行者の安全を守る新しい取り組みについてご紹介します。
65年ぶりの改正、歩行者の安全確保へ
今回の法改正は生活道路の法定速度の引き下げは1960年の道交法施行以来、初めてとなります。引き下げの対象となるのは、中央線や分離帯など車両通行帯がない道路のほか、複数の車線がない道路です。3年前、最高速度の標識がない千葉県八街市の道路で、飲酒運転のトラックが児童5人を死傷させる事故が発生するなど、歩行者や自転車の安全確保が課題になっていました。今回の改正は、このような事故が発生しないよう生活道路の安全を確保するのが目的です。すでに現在でも、通学路など生活道路の一部では、30km/hに制限された「ゾーン30」というエリアもあり、速度を出しにくくするための対策も行われております。
交通事故が大幅に減少した「ゾーン30」って何?
「ゾーン30」という言葉を聞いたことがありますか?この「ゾーン30」とは、生活道路における歩行者の安全な通行を確保することを目的とした安全施策です。「ゾーン30」の区域では、最高速度30km/hの速度規制を実施するとともに、ポール等を立てて道路の幅を狭くするなど、安全対策を必要に応じて組み合わせ、ゾーン内における速度の抑制や、ゾーン内を抜け道として通行する行為の抑制を図る交通安全対策のことです。
― 車が30km/h超えると歩行者の致死率が急激に上昇 ―
今回、生活道路での最高速度が30km/hに制限される理由として、自動車と歩行者が衝突した場合の致死率が大きく関係しています。自動車の速度が時速20~30㎞だと致死率が0.9%だったのに対し、時速30~40㎞となると歩行者の致死率が、2.7%に上昇するというデータをもとに設定されました。このゾーン30が整備された3,105カ所では、整備される前年と比べ、交通事故発生件数がなんと23.8%減少したというデータがあり、交通事故抑制効果が認められています。
歩行者の安全を守るゾーン30プラス
更に、ゾーン30の区域に物理的デバイスを設置させた、【ゾーン30プラス】という交通安全施策があります。ゾーン30プラスにおける歩行者の3つの安全対策は下記の通りです。
1. 速度を低減
ポールの設置やハンプなどで物理的に速度を低減します。
2. 注意喚起
交差点の手前の路面標示などでドライバーを注意喚起し、減速を促します。
3. 歩行者を守る
防護柵により歩道への車両侵入を防ぎます。
次に物理的デバイスのご紹介とそれぞれの効果についてお伝えします。
ハンプ
特徴:道路の路面に設けられた緩やかな凸状の部分のことです。通過車両を一時的に押し上げ、事前にこれを見たドライバーが速度を落とすことをねらっています。
効果:30km/hを超えて走行する車両の運転者に不快感を与えることで速度や抜け道利用を抑制する効果が期待できます。
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スムーズ横断歩道
特徴:車両の運転者に減速と横断歩行者優先の遵守を促す、ハンプと横断歩道を組み合わせた構造物です。
効果:横断しようとする歩行者等へ道を譲る確率が向上することが確認されています
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狭さく
特徴:車道の通行部分を局所的に狭くし、車両の速度を抑制するものです。
効果:道幅の一部を狭くしたり、カーブさせた形状としたりすることで、車両の走行速度を抑制する効果が期待できます。
ゾーン30プラスは、生活道路における人優先の安全・安心な通行空間の整備の更なる推進を図るため、最高速度30km/hの区域規制と、物理的デバイスの適切な組合せにより交通安全の向上を図り、警察と道路管理者が連携して全国的に整備を進めています。
最後に
生活道路においては歩行者の安全確保が最優先です。今後も、事故防止や安全性向上に向け、法改正や様々な対策が強化されていくことが予想されますが、最後はハンドルを握る運転者1人1人の意識により、歩行者の方々の安全に繋がります。今回のコラムで、改めて自分の運転を振り返る機会にしていただければ幸いです。