2023年10月1日から労働安全衛生規則の一部が改正され、トラックでの荷役作業時の安全対策が2トン以上のトラックに対して義務化されています。業務でトラックを使用される企業の車両管理者の皆さんは、充分に理解して対策されているでしょうか。そこで今回は、トラックでの荷役作業時の安全対策がどう変わったか、どのように対処すればいいのかを解説いたします。
改正点のポイント
1:昇降設備設置、保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲が拡大
改正前は最大積載量5トン以上の貨物自動車で荷役作業をする場合に昇降設備の設置が義務付けられていましたが、改正後は最大積載量2トン以上の貨物自動車で荷役作業をするときに昇降設備が必要になります。保護帽については、最大積載量が5トン以上のものに加え以下の2つの条件が追加されました。
●最大積載量が2トン以上5トン未満の貨物自動車であって、荷台の側面が構造上解放されているもの(平ボディ車、ウイング車など)
●最大積載量が2トン以上5トン未満の貨物自動車であって、テールゲートリフターが設置されているもの(テールゲートリフターを使用せず荷を積み下ろす作業を行う等の場合は適用されません)
装着する保護帽は型式検定に合格した「墜落時保護用」の物を使用する必要があります。
上記をまとめると以下の図のようになります。
2:テールゲートリフターを使用して荷を積み卸す作業への特別教育の義務化(令和6年2月から)
荷を積み下ろす作業におけるテールゲートリフター操作業務者に対しての特別教育が義務化されます。また、特別教育実施時には、事業者において受講者、科目等の記録を作成し、3年間保管する必要があります。
科目 | 範囲 | 時間 | |
---|---|---|---|
学科教育 |
テールゲートリフターに 関する知識 |
・テールゲートリフターの種類、構造及び取り扱い方法 ・テールゲートリフターの点検及び整備の方法 |
1.5時間 |
テールゲートリフターによる 作業に関する知識 |
・荷の種類及び取扱い方法 ・台車の種類、構造及び取扱い方法 ・保護具の着用 ・災害防止 |
2時間 | |
関係法令 | ・労働安全衛生法令中の関連条項 | 0.5時間 | |
実技教育 | テールゲートリフターの操作方法 | 2時間 |
ただし、条件によっては受講を一部省略できる場合もあります。詳しくはこちらを参照ください。
3:運転位置から離れる場合の措置が一部改正
走行のため運転位置とテールゲートリフター等の操作位置が異なる貨物自動車を運転する場合に、テールゲートリフター等を操作、または操作しようとしている場合は、原動機の停止義務の適用が除外されます。なお、ブレーキを確実にかける等の貨物自動車の逃走防止措置については引き続き義務付けられるのでご注意ください。
これらの法令に違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(安全衛生法第119条、120条)
法改正の背景
今回の法改正の背景には、陸上貨物運送業の労災の約70%が荷役作業中に発生していたという厚生労働省のデータがあります。労災全体の40%が荷台への昇降時に起きており、あおり上の移動やシート掛け中、荷上での作業でも転落・墜落が発生しています。
厚生労働省が発表している「労働災害発生状況」の令和4年版によると、陸上貨物運送事業においての志望者数は平成29年の137人から比較すると、令和4年には90人と順調に減っています。しかし、死傷者数で見ると平成29年の14,706人から令和4年は16,580人と約12%も増えています。つまり、死亡するような重大事故は減っているのに、怪我をするような事故は増えているということです。
車両管理者として対応すべきこと
企業の車両管理者として求められることは主に3つです。
1:使用している貨物自動車の最大積載量を確認
社内で使用している貨物自動車が対象となるか、車検証などで最大積載量を確かめましょう。
2:昇降設備・保護帽の準備
最大積載量2トン以上の貨物車両を使用している場合は、昇降設備と保護帽を使用できるように準備しましょう。昇降設備には貨物自動車に取り付けられたものだけでなく、持ち運んで使用できるものも含まれます。単なる足掛かりとなるものではなく、適切な昇降設備を設置することが必要です。ステップは両足がきちんと置ける幅のもの、滑り止め加工のついたものがおすすめです。また、昇降時の支えとなるグリップや手すりが付いているとより安全性が高まります。
保護帽(ヘルメット)は型式検定に合格した「墜落時保護用」の物を選びましょう。「墜落時保護用」のヘルメットには衝撃吸収用のライナーが付いています。
3:特別教育を受講させる
テールゲートリフターを使った荷の積み卸し作業をする場合は、特別教育を受講させましょう。特別教育は規定された科目および時間数の内容で、社内で行うことが原則とされています。しかし、充分な知識、経験を有するものでなければならないため、多くの企業は社内で行うことは難しいのではないでしょうか。
社内で実施する代わりに外部研修機関等が実施する特別教育を受講してもよいとされています。例えば、厚生労働省所管の特別民間法人である陸上貨物運送労働災害防止協会(陸災防)や、その他民間企業が運営している教習施設でも受講可能です。
2024年2月1日の施行日以降、特別教育の受講者でなければ作業が実施できなくなります。現在作業を行っている人を含め、2024年1月31日までに受講を完了するよう調整しましょう。
最後に
今回の法改正は昇降設備の設置や積載場所の検討、追加での教育受講等が必要となり、さらに設備を整えるために経費も掛かります。企業側としての負担が多く、トラックを運転するドライバーも面倒だなと感じるかもしれません。しかしいずれもドライバーの安全を守るための法改正です。安全なくして健全な企業運営はできません。コンプライアンスの観点からも法令順守し、是正すべき点は是正を進めていきましょう。