会社や事業所の車両管理に携わる方ならご存知の「安全運転管理者制度」ですが、2022年に選任義務違反への罰則が強化されたことをご存知ですか?また、道路交通法改正により、安全運転管理者の役割も追加されています。そこで今回は安全運転管理者の役割や届け出方法、強化された罰則内容など詳しくお話します。
安全運転管理者とは
安全運転管理者制度とは、一定台数以上の自動車を使用する事業所において、安全運転に必要な業務を負わせるものを選任させ、道路交通法令の遵守や交通事故の防止を図ることを目的として定められた制度です。
次に定められた条件に該当する事業所は、安全運転管理者、副安全運転管理者を設定し、15日以内に管轄の公安委員会(警察署)へ書面を揃えて届出をしなくてはならないと道路交通法で定められています。選任時はもちろん、解任など届出事項に変更があった場合も同様の手続きが必要です。
なお、作成する書面は各都道府県警察のホームページからダウンロード出来ます。
安全運転管理者を選出する必要がある事業所
●「定員11人以上の自家用自動車」を1台以上使用している事業所
●自家用自動車を5台以上使用している事業所(自動二輪車1台は0.5台で換算)
副安全運転管理者を選出する必要がある事業所
●20台以上の自家用自動車を使用している事業所
●20台につき1名の選任が必要(20台~39台=1人、40台~59台=2人、60台~79台=3人)
本社はもちろん、支店、営業所でも条件に合致すれば、支店・営業所ごとに安全運転管理者・副安全運転管理者を設定する必要があります。また自動車運転代行業者は、上記の条件に関わらず全ての営業所において安全運転管理者を選任し、副安全運転管理者は10台ごとに1人選任しなくてはなりません。
安全運転管理者の条件
安全運転管理者は次の条件を満たしている必要があります。
安全運転管理者
年齢20歳(副安全運転管理者を選任する場合は30歳)以上で、次のいずれかに該当する者
●運転管理実務経験2年以上
●公安委員会の行う教習修了者は、運転管理実務経験1年以上
●公安委員会が認定した者
副安全運転管理者
年齢20歳以上で、次のいずれかに該当する者
●運転管理実務経験1年以上
●運転経験3年以上
●公安委員会が認定した者
上記の条件と合わせて安全運転管理者・副安全運転管理者共に、過去2年以内にひき逃げ、酒気帯び運転、無免許運転等の違反・事故の前歴がないことが条件となります。
選任義務違反への罰則が強化
2021年に千葉県八街市で起きた飲酒運転事故は、被害の大きさはもちろん道路交通法で選任が義務付けられていた安全運転管理者を置いていなかったことでも注目が集まりました。この事故を機に2022年4月27日道路交通法の一部改正により、安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反、解任命令違反等について罰金額が引き上げられる罰則強化が行われました。
1:安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反
安全運転管理者や副安全運転管理者を選任する必要がある事業所にもかかわらず、安全運転管理者等を選任していなかった場合
2:安全運転管理者の解任命令違反
安全運転管理者等の解任命令に従わなかった場合
3:安全運転確保のための是正措置命令違反(新設)
都道府県公安委員会から自動車の使用者に対し命じられた是正措置命令に従わなかった場合
4:安全運転管理者等の選任解任届出義務違反
安全運転管理者等の選任や解任をしてから15日以内に届出を行わなかった場合
改正前後の罰則比較
違反内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
(1)安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反 | 5万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
(2)安全運転管理者の解任命令違反 | 5万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
(3)安全運転確保のための是正措置命令違反 | 新設 | 50万円以下の罰金 |
(4)安全運転管理者等の選任解任届出義務違反 | 2万円以下の罰金または科料 | 5万円以下の罰金 |
安全運転管理者の役割
安全運転管理者および副安全運転管理者は、安全運転を確保する為に事業所等の業務に従事している運転者に対する安全教育や、事故予防・削減に必要な業務を行わなければなりません。また、企業の飲酒運転事故が続いたことで道路交通法施行規則の一部が改正され、安全運転管理者の業務も追加されています。
具体的には次のような業務を行う必要があります。
1:運転者の適性把握
自動車の運転について運転者の特性・知識・技能や運転者が道路交通法などの規定を守っているか把握するための措置をとる
2:安全運転確保のための運行計画の作成
運転者の過労運転防止、そのほか、安全な運転を確保するために自動車の運行計画を作成する
3:長距離、夜間運転時の交替要員の配置
長距離運転または夜間運転となる場合、疲労などにより安全な運転ができないおそれがあるときは交替するための運転者を配置する
4:異常気象時等の安全確保の措置
異常気象・天災、その他の理由により、安全な運転の確保に支障が生ずるおそれがあるときは、安全確保に必要な指示や措置を講ずる
5:点呼等による安全運転の指示
運転しようとする従業員(運転者)に対して点呼などを行い、日常点検整備の実施、飲酒、疲労、病気などにより正常な運転ができないおそれの有無を確認し、安全な運転を確保するために必要な指示を与える
6:運転日誌の備付けと記録管理
運転状況を把握するために必要な事項を記録する日誌を備え付け、運転を終了した運転者に記録させる
7:運転者に対する安全運転指導
運転者に対し、交通安全教育指針にもとづく教育、自動車の運転に関する技能・知識、そのほか、安全運転を確保するために必要な事項について指導する
8:酒気帯びの有無の確認及び記録の保存(1年保存)【令和4年4月1日施行】
運転前後の運転者に対し、運転者の状態を目視などで確認することにより、酒気帯びの有無を確認する(第6号)。確認した内容を記録し、この記録内容を1年間保持すること(第7号)。
9:アルコール検知器の使用等 ※
8の確認を国家公安委員会が定めるアルコール検知器を用いて実施する(第6号)。アルコール検知器を常時、有効に保持する(第7号)。
※アルコール検知器の使用義務化は2023年12月1日より施行
最後に
ドライバーが業務中事故を起こした場合、損害を与えた従業員だけでなく使用者である企業も賠償責任を負うことになります。従業員への安全運転を意識付け、事故を起こさせないことは、企業にとって社会責任を全うする重要な課題の一つになります。安全運転管理者はこれを実行するための重要な役割を担っています。
事業所内で正しい安全運転管理者制度が運用されていれば、飲酒運転や無免許運転は管理者による運転前確認で未然に防止することが可能です。しかし事業所によっては安全運転管理者が権限を行使するための権威を事業主から与えられない、従業員の理解がなく協力を得られないなど、形骸化している例もあるようです。これを機に、一度事業所内の安全運転管理者体制について見直してみてはいかがでしょうか。