人口減少、少子高齢化によって、あらゆる業界で人材不足問題が叫ばれています。ニュースで取り上げられることの多い配達ドライバー、介護士、保育士以外に、自動車整備士の不足も深刻化していることをご存知ですか。次世代自動車の登場など明るい話題が続く自動車業界の裏側では車を直す人が不足しており、車社会の基盤が揺らぎかねない事態となっています。そこで今回は整備士不足を中心に整備工場を取り巻く問題をご紹介いたします。
整備士不足の現状
自動車整備業の有効求人倍率は4.55(令和3年)で、全国的に上昇傾向が続いており、人材は引く手あまたの状況です。また、自動車整備士資格の新規受験申込数は減少傾向であり、自動車整備業に従事していない整備士資格保有者は約54.8万人(推計)とされています。
自動車整備士不足の原因は主に以下の3つとされています。
1:若者の車離れ
都市部に住んでいて車そのものに触れる機会がない、購入しようにも高額で購入できないなどといった理由で若者の車離れが進んでいます。その結果、自動車に関わる仕事に対する興味関心が薄れていることが整備士不足に繋がっていると考えられます。
2:少子高齢化でそもそも若者が少ない
少子高齢化社会で若い人材の確保はどの業界でも急務です。そんな中、整備業界でも整備士の高齢化が問題となっています。自動車整備振興会連合会による令和4年「自動車分解整備業実態調査」では、整備要員平均年齢は46.7歳と年々上昇傾向です。業界へ就職する人より定年退職で辞める人の数が多く、整備士が不足する流れにあります。そのため、後継者が育たず廃業を余儀なくされるというケースもあるようです。
3:労働環境に対する悪いイメージ
自動車整備士は体力仕事で力仕事も多いのが現状です。いわゆる3K(キツい、汚い、危険)に加えて給料が低いというイメージが根強く、慢性的に「なり手不足」の傾向があります。また、現在働いている人も年を重ねるうち力仕事で腰を痛めたり、体力の低下で離職する人が多いという現実もあります。
整備士不足に対する対策
自動車整備士不足により必要な人材を確保できない現状を多くの企業は大きな問題と捉え、給料や待遇などを積極的に改善している企業が多いです。その結果、令和4年「自動車分解整備業実態調査」では、整備要員の平均年収は404万円で前年度比57,000円増加しています。また、作業者への負担を減らすためにITを活用したコンピューター診断ツールの充実や、作業現場にスポットクーラーを導入するなど設備や機材を充実させる企業も増えています。
国も整備士不足の現状を深刻に捉え、取り組みを進めています。2014年に自動車整備人材確保・育成推進協議会を発足させ、労働環境や待遇を向上させようという取り組みを始めています。また、整備士取得をサポートする「専門実践教育訓練給付金」制度のほか、各種学校では奨学金や特待生制度などで整備士になるための金銭バックアップも充実しています。
さらに国土交通省では、若年層への自動車整備士のPRや仕事体験、インターンシップを行うことで自動車整備士に興味を持ってもらい、未来の人材確保形成にも動き出しています。
価格高騰の波は整備工場にも
整備工場を取り巻く問題は、整備士不足にとどまりません。2023年現在、世界的な原油・原材料価格の高騰により、部品などの調達コストも増加傾向が続いています。油脂類、タイヤはもちろん、部品は新品・中古品問わず起きている価格上昇を企業努力では吸収しきれず、整備工場の財務状況を悪化させているケースが増えています。
加えて水道や光熱費、最低賃金も上昇しており、現在では値上げラッシュの流れに乗じて値上げに踏み切る工場も増えていますが、経営状況の改善が見込めず工場閉鎖、事業縮小する整備工場も少なくはないようです。
最後に
車の性能が向上して1台の車の寿命も長くなってきた現在、同じ車に長く乗るためにメンテナンスを行う自動車整備工場や自動車整備士は重要な存在と言えます。さらに将来的に電気自動車や自動運転技術をはじめとした次世代自動車の普及が想定され、こうした車を修理できる自動車整備士のニーズは今後も高まっていくことが予想されます。将来性の高い仕事であるからこそ、自動車整備士の労働環境や待遇改善、車検整備だけに頼らない工場の収益づくりなど、自動車整備業界には改善の動きを加速させることが求められています。