カーボンニュートラルと電気自動車

 日本政府が「2035年以降の日本でのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止」を発表してから約1年が経ち、この1年で自動車業界は一気に電動化が進みました。最近は電気自動車を見かける機会も増えてきましたが、これには世界規模でカーボンニュートラルを目指していることが背景にあります。今回のコラムではカーボンニュートラルについて、各国の対応とメーカーの状況、そして電気自動車についてお伝えします。

カーボンニュートラルの背景

2201_2_1.png カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを言います。世界の平均気温が2017年時点で工業化以前と比較し、約1℃上昇したことが示されており、このままの状況が続くとさらなる気温上昇が予測されます。早急の対応策として政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡にし実質ゼロにすると宣言しました

エネルギー需給と各国(各都市)の対応

 温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするためビジネスモデルは抜本的な見直しを迫られています。2019年度の国内二酸化炭素排出量の8割を占めるエネルギー転換部門や産業部門、運輸部門は転換期を迎えました。民間企業が環境問題に対応しやすくなるよう政府による支援も必要になり、産業部門と運輸部門に大きく関わる自動車業界も転換を求められています。
 走行中に二酸化炭素を排出するディーゼル車やガソリン車、ハイブリッド車は世界的にも減少傾向にあり、環境意識の高い国では2025年からガソリン車とディーゼル車の新車販売が禁止になります。またオランダの首都アムステルダムでは2030年以降はガソリン車やディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車の走行禁止を計画し、電気自動車や燃料電池自動車の乗り換えに政府が大きく関与してカーボンニュートラルを推進しています。
 日本も電動化へ大きく舵を切り、2035年以降ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止を宣言しました。また東京都は5年前倒しで2030年以降にガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止を計画しています。

メーカーの状況

 各国の方針により世界中で電気自動車や燃料電池自動車に注目が集まり、多くの企業で電気自動車が製造されています。既存メーカーのトヨタ自動車(日本)やフォルクスワーゲン(ドイツ)以外に新規事業として異業種企業も電気自動車製造に乗り出しています。テスラ(アメリカ)やBYD(中国)、SONY(日本)が参入して電気自動車の製造に力を入れていますが、中でもテスラは2020年アメリカのEV販売台数の約8割を占有しています。その時価総額は100兆円越えとトヨタ自動車の34兆円と比較すると3倍近く差があり、将来の電気自動車への期待が高いことが分かります。

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 日本ではトヨタ自動車が20211214日に「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開催し、2030年には電気自動車の世界販売目標台数を当初の200万台から350万台達成へ引き上げることを公言しました。個別ブランドのLEXUS2030年に全車種を電気自動車化することを発表し、2035年には世界で販売される車両は100%電気自動車にすることを発表しました。

電気自動車のメリット・デメリット

 電気自動車の良い点として、走行中に温室効果ガスを一切排出しないことや部品数がガソリン車と比較して約70%と少ないため5年間のメンテナンス費用はハイブリッド車の30%、ガソリン車の15%となりメンテナンス費用を抑えることができます。また災害時に蓄電池として活用でき、非常時の電源供給が可能です。事実、2019年に猛威を振るった台風19号の際は各自動車メーカーが電気自動車を派遣し、被災生活の負担軽減に大いに役立ちました。
 しかし電気自動車はガソリン車と比較すると懸念点があり、充電ステーションが少ないこと、充電に時間がかかることや航続距離が短いことが挙げられます。充電に時間がかかるためマンション暮らしの場合や自宅に充電器がない場合は充電ステーションに行く手間が発生します。また電池残量が少ない際に急用時クルマが利用出来ないリスクが考えられます。
 充電ステーションに関しては20219月時点で7846基設置されていますが、政府の成長戦略によると年々増加傾向にあり2030年までには現在のガソリンスタンド給油所数を超える3万基設置する予定のため、燃料補給に関しては解消されます。これ以外にも中国ではバッテリーステーションが存在し車のバッテリーを5分で自動交換する機械が発表され、バッテリーをシェアすることで充電時間が大幅に短縮され、ガソリン車と同様な利便性を提供できつつあります
 また、電気自動車は航続距離が短いと思われがちですが、最近の電気自動車は大容量バッテリーを搭載することで航続距離が長くなりました。今後も技術の向上によりさらに航続距離が長くなると想定されます。

メリットデメリット
・走行中の温室効果ガス排出がない
・部品数がガソリン車と比べ少なく、メンテナンス費用が抑えられる
・災害時に蓄電池として使用できる
・走行中の振動や騒音が少ない
・充電ステーションがまだまだ少ない
・充電に時間がかかる
・航続時間が短い
・車両販売価格が高い

 その他、電気自動車からは走行中には温室効果ガスが出ないことで環境にやさしい車と注目されておりますが、実は電気を作るエネルギー転換部門で火力発電に頼っている場合は多量の温室効果ガスが発生しております。これに関しては今後、火力発電に頼るのではなく、水力発電や再生可能エネルギーにて電気を作ることができるようになると電気自動車による温室効果ガスは排出されなくなります。電気自動車は現在も開発途中であり、日々猛スピードで開発が進んでいます。これまでのデメリットを改善し今後はより利便性が高い商品となります。

最後に

 今回のコラムではカーボンニュートラルと電気自動車についてお伝えしました。最近では配送用車両を電気自動車に順次入替する運輸会社やタクシーや中型バスを電気自動車とする企業も増加傾向です。現実的には電動化の一般普及には課題が山積みと言われていますが、今後どのような展開となっていくのでしょうか。時間はかかりますが政府と自動車業界が積極的に投資をしてインフラ増設に力を入れていますので時間の経過とともに解消されることが予想されます。これまで日本でエコカーといえばハイブリッド車でしたが、そう遠くない未来、電気自動車がエコカーの中心となる時代が到来するのではないでしょうか