国土交通省は、自動運転車が満たすべき安全性に関する要件を明確にする「自動運転車の安全技術ガイドライン」を策定しました。これは自動運転の早期実用化に向けて国際基準が策定されるまでの間も、安全な自動運転車の開発・実用化を促進するために策定されました。自動運転車の安全技術ガイドラインを策定し、自動運転化レベル3・レベル4の車が満たすべき安全性に関する要件を明確化することで、自動運転車の開発促進に繋がると期待されています。
そこで今回は、「自動運転車の安全技術ガイドライン」について解説いたします。
ガイドラインの対象レベル
国土交通省は自動運転化レベルの定義概要を以下のように定めています。
赤文字の箇所が本ガイドラインの対象範囲です。
レベル | 名称 | 定義概要 | 具体例 | 安全運転に係る監視、対応主体 |
---|---|---|---|---|
運転者が一部又は全ての動的運転タスクを実行 | ||||
0 | 自動運転化なし | 運転者が全ての動的運転タスクを実行 | 運転者 | |
1 | 運転支援 | システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行 | 自動ブレーキ、車線維持、クルーズコントロール等 | 運転者 |
2 | 部分運転自動化 | システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行 |
車線を維持しながら前の車を追走して走る 高速道路で遅い車がいれば自動で追い越す |
運転者 |
自動運転システムが(作動時は)全ての運転タスクを実行 | ||||
3 | 条件付運転自動化 |
システムが全ての動的運動タスクを限定領域において実行 作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答 |
システム(作動継続が困難な場合は運転者 | |
4 | 高度運転自動化 | システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行 | システム | |
5 | 完全運転自動化 | システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域領域内ではない)実行 | システム |
出典:国土交通省「自動運転車の安全技術ガイドライン」より
ガイドラインの目的は「自動運転システムが引き起こす人身事故がゼロとなる社会の実現を目指す」(国土交通省)ことです。事故を防ぐための具体的な方策として、ドライバーモニタリング機能の装備やサイバーセキュリティ対策、ユーザーへの情報提供といった要件を設定しました。
対象となる車両は、自動運転レベル3と自動運転レベル4のシステムを擁する乗用車とトラック、バスです。これらの該当車両は政府全体で市場化目標が設定されていることもあり、今後早期の実用化が見込める車両として期待が高まっています。
ガイドラインの概要
ガイドラインで安全性に関する要件は次の10項目が設定されました。自動運転車は以下の安全性に関する要件を満たすことにより、その安全性を確保しなければなりません。
1:運行設計領域(ODD)の設定
個々の自動運転車が有する性能および使用の態様に応じ、運行設計領域(自動運転システムが正常に作動する設計上の走行環境に係る特有の条件:ODD)を定め、走行環境や運用方法を制限すること
2:自動運転システムの安全性
●制御系やセンサ系の冗長性を確保すること等によりシステムの安全性を確保すること
●設定されたODDの範囲外となる等、自動運転の継続が困難となった場合には、最終的に車両を自動で安全に停止させること
3:保安基準の順守等
●自動運転に関連するすでに定められた道路運送車両の保安基準を満たすこと
●関係するISO等の国際標準等を満たすことを推奨
4:ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)
自動運転システムの作動状況等を運転者又は乗員に知らせるための以下の機能を有するHMIを備えること
●レベル3の自動運転車には、運転車がシステムからの運転操作を引き継ぐことができる状態にあることを監視し、必要に応じ警報を発することができる機能(ドライバーモニタリングシステム等)
●レベル4の自動運転車には、自動運転の計測が困難であるとシステムが判断し、車両を自動で停止させることをあらかじめ運転者又は乗員(運行管理者)に知らせることができる機能
5:データ記録装置の搭載
自動運転システムの作動状況や運転者の状況等をデータとして記録できる装置を備えること
6:サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティに関する国連(WP29)等の細心の要件を踏まえ、ハッキング対策等のサイバーセキュリティを考慮した車両の設計・開発を行うこと
7:無人自動運転移動サービス用車両の安全性(追加要件)
無人移動サービス(レベル4)に用いられる自動運転車については、1~6の要件に加え、運行管理センターから車室内の状況が監視できるカメラ等や非常停止時に運行管理センターに自動通報する装置を備えること
8:安全性評価
設定されたODDにおいて合理的に予見される危険事象に関し、シミュレーションテストコース又は路上試験を適切に組み合わせた検証を行い、安全性について事前に確認すること
9:使用過程における安全確保
使用過程の自動運転車両の安全確保の観点から、自動運転車の保守管理(点検整備)及びサイバーセキュリティを確保するためのソフトウェアのアップデート等の必要な措置を講じること
10:自動運転車の使用者への情報提供
自動運転車の使用者に対し、システムの使用方法、ODDの範囲、機能限界等を周知し理解することができる措置を講じること
例えば、道路(高速道路か一般道路か等)や地理(都市部か山間部か等)、環境(天候や時間帯)、その他(速度制限等)の条件でODDを設定します。このODDの範囲外となった場合や自動運転車に障害が生じた場合などには、車両を自動で安全に停止させることが必要であること等としています。
また、HMIを活用したドライバーモニタリングシステムを搭載しなければならないことや、使用過程車で保守管理を徹底するためにソフトウエアの更新機能を装着することも盛り込んであります。このガイドラインは、今後の技術開発や国際基準の策定動向などを踏まえ見直していきます。
ガイドライン策定の理由
今回、国土交通省は、なぜこの『自動運転車の安全技術ガイドライン』を策定するに至ったのでしょうか。一つには、自動運転車の安全等に関する国際基準がまだ確定していないことが、大きな背景となっています。
現在、国際基準が無い中、各国のさまざまな企業が自国のルールのもとで自動運転車の開発・実用化を進めています。そのため、残念なことに開発中の自動運転車による事故が少なからず起きてしまっています。今春、アメリカで公道を走っていた自動運転車が、夜間に道路を横断していた歩行者を死亡させるという痛ましい事故があったことは記憶に新しいところではないでしょうか。
これまで、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)などで自動運転にまつわる基準を作るための議論が行われていますが、先述したように自動運転車の安全等に関する国際基準はまだありません。国土交通省としては、まず国内で先行して自動運転車の安全等に関する基準を作り、それを踏まえて国際的な議論を主導していく狙いがあると思われます。
最後に
自動運転が実用化段階を迎えつつありますが、特に完全自動運転を実用化するに当たってはさまざまな法制度上の課題に対応しなければなりません。今回の策定に伴い、世界に先駆けて自動運転の実現を目指す日本の各メーカーがどう動くのか、注目が集まります。